既婚者合コンで出会った男性との別れ——44歳女性の本音
「終わりにしよう」
その一言を送信するまでに、私はスマートフォンを何度も握り直していた。画面に表示された短いメッセージは、たったそれだけなのに、指が震えてなかなか送れなかった。
44歳。既婚。子どもは中学生が一人。どこにでもいる、ごく普通の主婦。そんな私が、既婚者合コンに足を踏み入れたのは、今から3年前のことだった。
■「女」として見られたいという気持ち
きっかけは些細なものだった。
夫とは不仲ではない。会話もあるし、家庭は安定している。ただ、そこに「ときめき」や「緊張感」はもうなかった。名前で呼ばれることもなくなり、「ママ」とか「おい」とか、そんな呼び方にいつの間にか慣れてしまっていた。
ある日、鏡を見たときにふと思った。
「私はもう、女として終わっているのかもしれない」
その感覚が、ずっと頭から離れなかった。
そんなときに知ったのが、既婚者合コンだった。最初は軽い興味だった。「どんな世界なんだろう」という好奇心。でも心の奥には確実に、「誰かに女性として見られたい」という気持ちがあった。
■彼との出会い
彼と出会ったのは、2回目に参加した会だった。
年齢は47歳。穏やかで、落ち着いた話し方をする人だった。他の男性がどこか探るような視線や会話をしてくる中で、彼だけは自然体だったのを覚えている。
最初は何気ない会話だった。仕事の話、子どもの話、休日の過ごし方。特別なことは何もない。でも、不思議と居心地が良かった。
会の終わりに、「もしよければ」とLINEを交換した。
私は普段、あまり連絡先は交換しないようにしていた。トラブルになるのが怖かったから。でもその時は、なぜか断る理由が見つからなかった。
■少しずつ近づいていく距離
最初のメッセージは、当たり障りのないものだった。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったです」
そこから、1日1通、2通とやり取りが増えていった。
彼との会話は、不思議と自然だった。無理に話題を作らなくても続く。既婚者同士だからこそ、お互いの立場も理解している。踏み込みすぎず、でも適度に近い距離。
数週間後、二人で会うことになった。
昼間のカフェ。人目のある場所。最初はそれくらいがちょうどよかった。
その日、彼に「綺麗ですね」と言われた。
何年ぶりに言われただろう。その一言だけで、自分の中の何かが一気に満たされていくのを感じた。
■関係の深まりと揺れ
それから、月に1回、2回と会うようになった。
会うたびに、少しずつ距離が縮まっていった。手が触れるようになり、やがてそれ以上の関係にもなった。
「いけないことをしている」
頭では分かっていた。でも、その時間だけは、自分が“女”でいられる気がした。
彼も同じようなことを言っていた。
「家ではもう、ただの父親でしかないから」
その言葉に、共感と安心を覚えてしまった。
■見え始めた違和感
関係が続くにつれて、少しずつ違和感も生まれてきた。
彼からの連絡の頻度が、ある時期から不安定になった。急に返信が遅くなったり、そっけなくなったり。
理由を聞くと、「仕事が忙しい」「家庭のことでバタバタしている」と言う。
既婚者同士だから、無理は言えない。そう自分に言い聞かせていた。
でも、心のどこかで感じていた。
「優先順位が下がっている」
■決定的な出来事
ある日、彼からの連絡が3日間途絶えた。
それまではどんなに忙しくても、何かしらの返信はあった。それが急に、完全に途切れた。
嫌な予感がした。
そして4日目、何事もなかったかのように「ごめん、バタバタしてた」とメッセージが届いた。
その瞬間、何かが冷めた。
ああ、この人にとって私は、その程度なんだ、と。
■別れの決断
それから数日、私はずっと考えていた。
この関係を続けて、私は何を得られるのか。
最初は「女として見られたい」という気持ちだった。でも気づけば、「彼に選ばれたい」「大切にされたい」という欲求に変わっていた。
それはもう、既婚者同士の“割り切った関係”ではなかった。
でも、彼にそれを求めるのは違う。
だから、終わらせるしかなかった。
■最後のメッセージ
スマートフォンを手に取り、何度も文章を書き直した。
責める言葉は入れない。
感謝だけを伝える。
重くならないようにする。
そして、最終的に残ったのはシンプルな一文だった。
「今までありがとう。これで終わりにしようと思います」
送信ボタンを押したあと、しばらく動けなかった。
■別れのあとに残ったもの
彼からの返信は、意外とあっさりしたものだった。
「わかった。こちらこそありがとう」
その短さが、逆に現実を突きつけてきた。
ああ、この関係はこの程度だったんだ、と。
■それでも無駄ではなかった
正直に言えば、寂しさはある。
でも、不思議と後悔はしていない。
あの時間があったから、自分の中にまだ「女としての感情」が残っていることに気づけた。
ただし同時に、学んだこともある。
既婚者合コンでの出会いは、あくまで“非日常”の中の関係だということ。そこに本当の安心や安定を求めてしまうと、必ずどこかで歪みが出る。
■これからについて
今はもう、既婚者合コンには参加していない。
また行こうと思えば行ける。でも、同じことを繰り返す気がしている。
あの時感じたときめきも、満たされた気持ちも、本物だったと思う。でもそれは、長く続くものではなかった。
だからこそ、あの関係はあのままで終わってよかったのだと思う。
■最後に
44歳という年齢で、新しい感情に出会えたこと。
それは決して悪いことではなかった。
ただ、その先に進むかどうかは、自分で選ばなければならない。
私は「終わらせる」ことを選んだ。
それが正しかったのかは分からない。でも今は、静かな日常の中で、少しだけ穏やかな気持ちでいられている。

